隣の敷地の茂みに絡みつくようにつるを伸ばしながら、その先にたくさんの白い花をつけています。一つひとつの花からは芳香がこぼれて来ます。つる性の植物で、花の蜜を吸うと甘いことから「吸葛」と書きますが、葉を枯らすことなく冬を越えることから、「忍冬(ニンドウ)」という中国名を持ち、こちらの表記の方に、より詩情をかきたてられますね。
「忍冬のだらだら花や法師蝉」 (石田波郷)
スイカズラの花の一つひとつは短命で、すぐに黄色味を帯びたと思ううちに萎れてしまいますが、新しい花が次々に開くので花の時期は長く、ほぼひと夏を越えて行きます。石田波郷や星野麥丘人といった俳人はそんなスイカズラを「だらだら花」「だらだら咲き」と表現しています。彼らはこの花を決して軽んじていたのではありません。石田波郷は晩年の練馬の家の生垣に咲くスイカズラの花を愛し、その家を「忍冬亭」と呼んでいました。1932年に松山から上京した石田は、大学中退、出征、病気療養を経て、1946年からは、戦争の劫火に翻弄された人々がたくましく再生していく東京の街に居を構えて、移ろいゆく季節が刻む小さな襞(ひだ)のなかに見え隠れする、人間の心模様を拾い上げるように、数々の句を遺しました。
道端の小さな草花を見つめることのできる時間を、いつまでも忘れずにいたいものです。
(片岡)